「落ち着いたら、またこちらから連絡する」
相手任せで曖昧な約束を残して彼女が帰ったのは、KSKが所属する事務所が、解散後の彼女たちの"進路"を発表する数日前のことだ。

――随分長いインターバルでしたが、何をしていましたか?
――いろんなことに挑戦しました。料理など身のまわりのこと、読書や楽器など趣味のこと、あと旅行にも行きました。アルバイトもしてみたかったんですけど、さすがに周囲に反対されて。
――それはそうでしょうね(笑)レストランで注文をしたら、赤司さんが運んできた―では驚いてしまいます。
――もちろん、その間もソロプロジェクトは進めていました。曲を書いたりボイストレーニングをしたり、今後の進行を考えたり。レコーディングが始まってからは、休憩時間にエンジニアにミックスを教えてもらいましたよ。
――それは勉強熱心ですね。赤司さんがミックスした曲は今回のソロデビューシングルには入っている?
――いいえ、残念ながら(笑)けれど知らなかった部分を知れば、よりよくするためにはどうすればいいか、という思考の幅が広がります。そういう意味で大変に有意義でした。
――将来的には、どこかで赤司さんのミックスした曲が聞けると。
――それも面白いですね。

――KSKのみなさんとはお会いになりますか?
――はい。大輝は国外なのでなかなか難しいですが、それ以外のメンバーとはときどき。メールはよく送られてきますし。
――全員、見事にバラバラの"進路"となりました。赤司さんがソロ、緑間さんがミュージカルを中心に舞台、青峰さんがアメリカ留学。
――真子は秀徳組の舞台によく出ていますね。先日もチケットを送ってくれました。大輝もあの性格ですから。パワフルで広い土地のほうが合っていたんでしょう、言葉には苦労しながらも元気にやっているようです。
――紫原さんがグラビア―と、最近は料理番組にもよく出ていますね。
――敦美はもともと、料理は苦手や不得手ではなかったんですよ。解散して時間ができて、徐々に食べることと同じくらい作ることに興味が出てきたんでしょう。
――黒子さんはなんと進学。学業を優先して仕事はナレーションやアナウンスなどに限っているとか。
――CMやラジオから彼女の声が聞こえるとホッとします。私は彼女の声が好きなので。
――そして黄瀬さんはモデル業を中心にファッションの道へ。先日はオリジナルブランドの発表会がありました。シンプルな濃いブルーのシャツが似合っていましたね。
――涼香もファッションや服飾デザインにもともと興味があったんです。ただアイドルとの両立は難しくて。"進路"がいちばんに決まったのが涼香でした。「モデル! ファッション! コーディネート! 服飾やりたいッス!」って(笑)
――ああ、想像できます(笑)赤司さんはKSKのリーダーとして、全員になにかアドバイスを?
――いいえ、なにも。私がしたことと言えば、ただ全員のことをよく見て、話を聞いただけ。全員がそれぞれ、自分の考えで道を選びました。

――先ほど、インターバル中に旅行に行ったと言っていましたが。
――ええ、行きました。
――それはもしかして。
――お察しのとおりです。KSKとしての仕事がすべて終わったあと、なんとかスケジュールを合わせて6人全員で。温泉地に2泊3日。いわば卒業旅行です。
――はた目には豪華な卒業旅行です(笑)
――にぎやかでしたけど、ゆっくりできました。楽しかったです。都内に戻ったその日はうちに泊まって。
――「うち」
――ええ、私の家です。早めに戻って荷物を降ろして、全員で料理を作って。それからパジャマパーティー(笑)"卒業旅行"の打ち上げのようでした。
――卒業旅行なのに打ち上げ(笑)

――ソロデビューシングルはなんと全英語詞の3曲入り。これは今後の世界デビューを見据えてのことですか?
――そんな大げさなものではないんです。……なんというか……歌詞の意味が伝わってほしいようなあいまいなままでいてほしいような…そんな微妙な乙女心を含んだ照れ隠しなんです。
――照れ隠し! 赤司さんが!
――似合いませんよね。
――いいえ、まさかそんな。いえ、でも予想外で大変驚きました。文字では伝えられませんが、いま、周囲がものすごくざわめきました。メイクさんは小物をぶちまけるし、カメラマンは手が滑るし(笑)
――動揺させてしまって申し訳ないです(笑)対訳を見てもらえれば分かるんですが、歌詞の内容は乙女心とは少し離れています。
――元アイドルのソロデビュー曲、しかもリードナンバーとは思えない歌詞です(笑)そして2曲目の「――」はMVがまた迫力です。炎の向こうで苦しげに手を伸ばしながら歌う赤司さん。髪に火がついて燃え上がるシーンがありますが、これは実際に燃やしたんですか?
――表現としてのリアリティを求めていたので、少しでもそうできればとは思ったんですが、さすがにリスクが高すぎてできませんでした。なので合成です。
――それにしてもばっさり切り落としましたね。KSK時代は肩につくツインテールでしたが、なんとベリーショート。失恋でも?(笑)
――(笑)KSKに。とは冗談ですが、気分転換です。しばらく長かったのですっきりしました。