もうあんまりどうしようもないから

こっちで供養………本当に、本当にちゃんと書きたいと思っているのになあ…本当に書けなくなってるなあ……寂しい……。

きゅ、だん、と耳慣れた音がして降旗は顔を上げた。立ち止まってイヤホンを外してみると、気のせいではなくやはり聞こえる。道沿いの少し先に小学校があるから、その体育館だろうか。
大きく硬いバスケットボールが床を打つ音。滑り止めの効いたバッシュとフロアコートがこすれる音。時間を知らせるブザーの低く響く音。
しかし見上げた体育館の照明は暗い。非常灯の緑色がぽつりぽつりといくつか点いていると窺えるだけで、人の声は聞こえず、室内に誰かがいる様子もない。小学生が照明を消して遊んでいるのかと思ったが、それにしても妙だろう。
ポケットから携帯電話を引っ張り出して時間を確認すると、青少年何とか条例で18歳未満外出禁止となる時間も近づいている。
ミニバスにしては時間遅すぎるし。迎えの車とか、なくね?
シャカシャカと音を漏らすイヤホンを再び耳につけ、再び歩き出した。そういえば、俺どうしてイヤホン外したんだっけ? 思考を埋め尽くすように震え鳴るイヤホンの向こうで、またボールの弾む音が聞こえた。

数メートル先に、街灯を背にして立つ誰かが降旗に手を振っていた。転がってきたこのボールを投げろと言うのだろうか。
しゃがみ込んでボールに手を伸ばす。両手で掬うように拾い上げ、立ち上がって視線をボールから目の前に向けて息を飲んだ。つい先ほどまで向こうにいた相手が目の前に立っている。確かにたかだか数メートルだ。だがしゃがんでボールを拾い、顔を上げるまでもたかだか2、3秒だ。いくらなんでも一瞬にして詰められる距離ではない。
降旗はもう、悲鳴を上げることさえできなかった。手の中のボールからいつの間にか届く、ゴムの焼け焦げた臭いを感じながら、目の前にいるのに表情の分からない相手を見ているしかできなかった。
相手は目と口をぐにゃりとゆがませて笑った。
「いっシょにィ…あそぼォ…?」

タン……タン……とボールの転がる音だけが、ひと気のないプロムナードに残った。

実体験を元にしたホラー。…になりたかったしなりたいし。
それにしても、昔はいったいどうやって書いていたんだろう。なんでこんなに、いつからこんなに、書けなくなったんだろう。