VOiCEのイントロを聞いて

荒廃した地を踏みしめて歩く。大小の瓦礫が転がる足元は安定しない。どこもかしこもがたがたで、次の一歩を下す場所を考え、慎重に注意を払って道なき道を行くのはとても疲労した。けれど降旗は進まなければならない。
周囲は見渡す限り一面、荒廃した混沌だ。降旗が横目にしながら先ほどとおりすぎてきたのは巨大都市のシンボルだった女神像の片目だった。いま踏みつけているのは瓦のように見える。瓦の横にはつるりとしたタイル張りの壁と、ひげのようにやたら根の長い種類の倒木と、派手な色のゆがんだ鉄骨が折り重なっている。自然物も人工物も、洋の東西も問わず混ざって荒地を構成していた。
そしてそれはこの土地だけではない。どこへ行っても同じだった。西へ行っても、東へ行っても、北も南も、この星の上はすべて。
荒廃している。荒廃してしまった。
もうそろそろ、どれだけ旅をしているか分からなくなってきそうだった。西も東も、北も南もいろいろなところへ行った。けれどまだ行かなければいけない。どれだけ旅をしているのか分からなくなっても降旗は進まなければいけない。見つけたい、見つけてあげたい。ただひとつ求めるものがある。
ふいに強い風が吹いて、降旗は腕で顔を覆った。風をやり過ごして腕を下すと見慣れ、見飽きた荒地がどこまでも広がっている。ふう、と息を吐いた。捜しものはまだ見つからない。
「……どこに行っちゃったんだろう、あかし……」

荒廃の原因は中央システムの暴走だ。
未来都市の維持管理し、支えていたシステムがなんらかの原因で壊れ、暴走し、都市を破綻と崩壊へ追い込んだ。
中央システムはプログラムAIで、ひとつのコアと複数の方面管理で構成されていた。方面管理AIはコアに情報を提供し、コアAIは方面管理に指示を与える。
コアがメンテナンス中であったり、くり返される日常の指示である場合は方面管理が自主的に判断の上で処理し、ひとつの方面管理に不得手な事象が発生した場合は、その事象を得手とする他の方面管理が補って処理を行っていた。
それがあるとき、突然機能しなくなった。
コアは壊れ、暴走し、方面管理はコアの破損と暴走に前後してすべての機能を停止、凍結した。
未来都市の機能は突如、一瞬にして停止、すぐさま破滅と崩壊が襲いかかった。
ところで、中央システムには名前がついていた。その名づけの自然さゆえに「中央システム構築には生贄があった」とさえ都市伝説に語られている。
方面管理は全部で五つ。それぞれ防衛、物流、生活支援、交通、広範情報処理のダイキ、アツシ、シンタロウ、リョウタ、サツキ。そしてコアの名前はセイジュウロウという。この「セイジュウロウ」が降旗の捜しものだ。

降旗光樹はプログラム管理者だった。いま思ってもどこか腑に落ちないくらい不思議な縁で中央システム管理局に職を得、さらに不思議な縁でコアAIの管理部署へ異動させられた。
コアAIの管理部署といえばプログラム系の仕事をするものからすれば、未来都市内随一の職場だ。憧れであり花形中の花形でもあるそこは、成績や実績実力以上に相性が求められる。

もうそうがここまでいっしゅんでかそくした