黛さんってサイバーズ・ギルト持ってそう。
正確には、サイバーズ・ギルトっていうか、取り残された経験というか、自分ひとりだけ置いて行かれた、生き残った経験。バトロワ的な。
罪悪感は持っているか分からない。

上着を取りに部室へ行って戻ると、それまで騒がしいほどの人の声と、さまざまな動作音にあふれていた体育館は空っぽだった。
ステージの縁に置いてあったタオルやボトル類はなく、ボールはすべてボールカゴに収められてそれぞれのゴール下に。まさか一瞬ですべて消えてしまったはずもなかろうが、あったはずの物も音もなくなり、普段を思えばよそよそしいほどの静寂と無だった。
――ちー。
体育館の入口で停めていた足を、そろりと中へ進める。自分の足音だけが空っぽの広い空間にわんわんと響く。
――ちひろ
中央の大コートのセンターラインに足を踏みかけて、黛は勢いよく入口を振り返った。
呼ばれた。いや、呼ばれるはずもない。照明も点いている。似た状況下で思い出し、呼ばれた気がしただけだ。――それでも確認せずにはいられない。

渡り廊下を近づいてくる声が聞こえる。喧騒が戻ってきた。
「あー! 黛さん戻ってる!」
騒々しさにほっとする日が来るとは思わなかった。幻想を振り払い、いつもと同じ態度に戻る。
ただ、くり返されないことを祈るだけだ。
「…お前ら、プライベートで同じ車に乗って騒ぐようなことするなよ」

「…ちー? ちひろ?」
「…博臣?」
「おーい、電気どこだ。暗くて見えねえよ」

「で、なんで呼んだんだよ」
「…ああ、俺が呼んだのか」

「会うだろ。お互い寮には入るけど、同じ府内じゃねえか。休みの日とか」
「会うか?」
「会うだろ。家近いし、帰れば偶然だって会うだろ?」
「…そうか、会うか」

「死ぬと卒業証書もらえないんだなって」
「ああ……すまない」

「…博臣?」
「――」
「ひ、ろ、博臣!」
「――」
「聞こえない! なんて言ってるんだお前、聞こえない、…全然聞こえねえよ…」
ちひろ
「…ひろおみ…?」
「俺たち、一緒に卒業したんだ」

というわけで唐突に軽率に夏芙蓉パロ。
名前を宏樹くんから博臣くんへ変更。臣の字が入る名前好き。