たぶん疲れてたんだと思う

「……なあにぃ…あれぇ……」
「……さあ……」
眠い目をこすりながら、いつもの明瞭さやキレの欠けた、ゆるい口調でアルミンが言う。
応えたジャンも、しかし正体を知るはずもなく、突如として兵舎の付近に組み上げられていく櫓のようなものを見守るばかりだった。

104期訓練生が日夜、共同生活と訓練と勉学に励む訓練兵舎の近くで常とは違う物音が響いたのは、訓練休息日の早朝のことだった。
トンカンガランと騒々しい音が聞こえ始めたのは、起床のラッパより早い時間で、神経の細い者や眠りの浅い者は、せっかくの休息日にもかかわらず、かえっていつもより早く起こされることとなった。

「さあ! ことしも始まりました、兵団対抗弁論交流大会! お揃いのレディースもジェントルメンも皆さまとうにご存知、この弁論大会は各兵団ごとに自団を語り誇り、あまり知らない他団を理解し交流し、いざという日に備えてコミュニケーションを取ろうという趣旨の元で行われます。――という建前で、心置きなく存分に自団を自慢し、上司を誇り、自慢し、萌え、愛で、普段の思いのたけをぶちまけろ! というものです」
「遠慮忌憚のない発言、『心ある』野次は当大会の華ですが、ヘイトスピーチは即刻退場ですのでご承知おきくださいね!」
「今大会の進行は、先日訓練兵団を出て各兵団に配属になったばかりの我々103期が務めます。そして司会兼実況はわたくし、ウィリアム・モーブリーと」
「わたくしマリア・サリモブァーが務めます。諸先輩の皆さま、拙い進行ではありますが、精一杯頑張りますのでご協力お願いいたします――ああ、さっそくの応援拍手ありがとうございます」
「ありがとうございます、頑張ります。ちなみにわたくしウィリアム・モーブリーは憲兵兵団、マリア・サリモブァーは駐屯兵団です。多少の贔屓は容赦ください」
「さて、前置きはここまでにして、さっそく進めたいと思います! 舌戦の先陣を切るのは、皆さまに入場時に引いてもらったくじで当たりを引いた――駐屯兵団です!」
「イエェェェエスッ! ヤー!」
「マリアは落ち着いて。駐屯兵団トップバッターはこの人、精鋭班副班長の」
「リコ・ブレツェンスカだ」
「ではどうぞ!」
「いいか、よく聞け。駐屯兵団のドット・ピクシス団長は――かわいい」
「出ましたー! 今大会最初の『かわいい』です!」
「歴代ひっそりと受け継がれている大会記録によると、『かわいい』は駐屯兵団最頻出ワードで、その数は他団の追随を許しません!」
「これはもはや十八番、専売特許と言っていいのではないでしょうか!」
「ちょっと待ったー! 『かわいい』が駐屯兵の専売特許だって!? そんなのは俺たち憲兵団の目の黒いうちは到底許容できねえな!」

「おーっと、ここで乱入、いや闖入者だ! しかし発言は正当! 確かに訓練兵団も兵団のひとつです、我々は参加を受け入れなければなりません! 念のため彼の参加を認めるかどうか、紳士淑女の皆さまに諮りたいと思います。彼を受け入れることに賛成の皆さま、拍手を!――ありがとうございます、多数の拍手の賛成により、我々は彼を受け入れます。さてまず訓練兵くん、名前は?」

とここまで一気に妄想爆発して我に返った…落ち着いたっつうか。
各団対抗の団長&自団自慢大会があったら面白いんじゃないのかな…進行は、まだあまり団を知らないからって新入期生がやるとか。ハガレンの炎対鋼的な感じで。お祭り的な感じで。
訓練兵団はこれまで直接絡んでなかったから、他人事と思って笑って場所を貸してたけど、今回の闖入で恥ずかしくなっちゃって、来年からは開催の危機…とか。