歌う降旗くんの設定を前提に別の話とか

ぽん、と鳴って携帯電話がメッセージの受信を告げた。友人を風呂場に見送ってからメッセージを開けば、そこには
『していない。しているひまもない』
という簡潔なひと言。
昼間送った、『ケンカでもしたのか』というメッセージへの返信だ。チャットアプリでは友人にも読まれてしまうため、あえてのメールだ。
さて、いま返事があったということは、つまり昼以降、手の空く時間がなかったということか。
返信に要した時間に状況を把握し、漢字変換さえ省略された彼らしくない文字には切実さを感じ取り、そういうことかと理解する。
音で友人の様子を探りつつ、すぐさま「電話してもいいか」と返事を送れば間を開けず着信音が鳴った。
ベランダへ出て通話ボタンを押す。
「はいはい、高尾ちゃんでーっす」
『すまないね。いま大丈夫か?』
「電話していいかって訊いたのこっちだって。光ちゃん風呂だし」
『……そうか』
「あー…まあ、だいたい状況は把握したけどな」
ため息をこちらに聞かせないよう、そっと息を吐き出す呼吸音が聞こえて、いま忙しいんだろ? と続けた言葉は確認ではなく念押しになってしまった。
『いろいろ重なってしまってね。…光樹はどうしている?』
「仕方ないのは光ちゃんも分かってるよ。だから赤司には言わない。でもやっぱり寂しいみたい」

「めちゃくちゃ荒れてた。まずカラオケで全力投球、高音から低音まで歌いまくり。メシはあるっていうから酒だけ買い込んで光ちゃんち行ったら、玄関からベランダまで家中ぴかぴか。料理は大鍋にいっぱいのクリームシチューに、ひじきと根菜と枝豆のサラダ…って男子学生の作るメニューじゃねえと思うんだけどどうよ? 火神直伝だっていうタンドリーチキンも焼くだけになってるし。あとコカとかいう、スペインのピザだっていうのもあった。生地から作ったんだって。光ちゃんマジすげーな。これもうまかったよ。とりあえず荷物下して「飲みものなにがいい?」って訊かれたから、せいぜいお茶とコーヒーくらいだと思ったら「ほうじ茶と緑茶とコーヒーと、紅茶はヌワラエリヤとアッサムとキーマンがあるよ。あとゴボウ茶とココア」って言われて俺はなにを選んだらいいの? で? シチューとサラダとチキンとピザのメシ食ったら、「デザートはなにがいい?」だって! もうなにがあるのか聞くのがちょっとこわかったんだけど分かる? にんじんケーキと蜂蜜クッキーとフォンダンショコラだって! 「フォンダンショコラはいまから焼くから10分くらいかかっちゃうけど」だって!」
『……それはずいぶんだな。カラオケではどんな様子だった?』
「あーそれ訊いちゃう? 選曲ひどかったぜー。夢やぶれて、Letters、Rolling In The Deep、We Are Never Ever Getting Back Together、ROOM…」
「……すまなかった」

寂しさやストレスを家事や料理やお菓子作りやカラオケで発散する降旗くん。