↓のプロポーズ&結婚ので

目のくらむ閃光と機関銃のようなシャッター音が途切れない中、黄瀬涼太はまっすぐ伸ばした姿勢で前だけを見て歩き、用意されたテーブル前にたどり着いた。
集まったメディアに正面から向き直り、頭を下げた。きれいに、まっすぐ、真摯に。メディアにとってこれは思いがけない行動で、一瞬、シャッター音もフラッシュも途切れたが、すぐさまそれまでの比ではない音と光が黄瀬を襲った。
「――この度は、お忙しい中、わたくしの会見においでくださいましてありがとうございます」
顔を上げた黄瀬は、スタンドからマイクを外して話し出す。
「のちほど質疑応答の時間を設けます。制限時間などは設定せず、彼のプライバシーを侵害することでなければ質問内容にNGはありません」

雑誌に撮られてしまったのをきっかけに、生中継の謝罪(?)会見を開く黄瀬。
やっぱり黄瀬が、能動でも結果的にでも先鋒かなーという気がしてきて。

「彼はわたしを芸能人やキセキといったフィルターをかけず、けれどそれを踏まえたうえで黄瀬涼太個人として尊重し、指導し、導いてくれました」
「彼との出会いがなければ、ここに黄瀬涼太はいませんでした」
「わたしも彼を個人として敬い、尊重し、とても、大事に思っています」
「彼との関係で、恥じることやうしろめたく思うことはかけらもありません」
「……ただ、自分とユキさんのご両親には、お互いに子どもという存在を見せられないことを申し訳なく思います」
「ユキさんのお父さんお母さん、俺の父さん母さん。……親孝行ができなくてごめんなさい。でも許してください」
「……認めてください、幸せなんです」

シンプルでスタンダードな黒のスーツに、地味な色合いのネクタイ。革靴もスーツに合わせて黒だ。
いずれも形よく美しいものだが、ごく一般的な価格のもので決して高価ではない。
ほこりを払い、襟や裾を整え、髪もおとなしくセットする。革靴の汚れも確認し、くすみひとつないことに灰崎は頷いた。
「よし、完璧」
「ありがと、ショーゴくん」
「まさかリョータ相手にこんな地味なセットするとはな」

黄瀬専任美容師(兼スタイリスト)な灰崎。
会見は控室で見守ってるお兄ちゃんな灰崎。

『見てるか』
『控室で見てる』
目的語のないメールに返す言葉は似たようなものだ。虹村なら分かるだろう。
控室の小さなテレビの中では、黄瀬が相手への敬愛を語っていた。
虹村はどこで見ているのだろう。仕事中ではないのだろうか。

『○○出版社の○○と言います。無礼を承知で訊かせていただきますが、黄瀬さんはゲイだったんですか』
『訊いてくださってありがとうございます。ファンのかたたちも、それ以外の人も、気になっている点だと思います』
黄瀬は空手で会見場へ入ってきた。最初のあいさつ以降、席に着いてからもメモを取り出すでもない。原稿どころか予想される質疑への応答一覧さえ用意がないらしい。
「……ようやる」
つぶやいた言葉は呆れの意味だったが、声はやさしかった。
原稿の用意がないのは、事務所の意向が入らないということだ。つまり事務所は、全面的に黄瀬涼太を信頼し、支持しているのだ。
『最初は、自分でもゲイだったのかと悩んだこともありました。けれど……よく考えてみれば、初恋だったんです』
初めてで唯一で、比較対象もなく分からなかった。憧れならば離れれば美しい思い出に変わると思った。けれど少しも変わらなかった。
『自分がゲイかどうかは、いまも分かりません。女性だろうと男性だろうと、彼以外に――ユキさん以上に執着する人はいないんです』
質問の答えになっているでしょうか、と眉を下げて笑う。質問した記者はやや呆然として、思わずといった様子でこぼした。
『――黄瀬さんは、初恋を実らせたんですね』
あまりの言いように思わず噴き出したが、自分は悪くないだろう。画面の向こうの黄瀬も、思いがけない言葉に目をぱちくりさせている。
『……ああ…そうですね。考えてもみませんでしたが、結果的にはそうですね。……初恋が実らないって、うそですね』
そう言ってほほ笑んだ顔は、溶けそうな笑顔だった。

キセキに限れば、黄笠→火黒→赤降・紫氷→緑高(→青桃)かな。
劉福は紫氷のあと、葉宮は緑高のあと、かなあ。