歌うのネタ

BGMだった喧騒の中から、たったひとつ、高尾の耳に飛び込んできた言葉があった。
それが聞こえた方向へ視線をやると、発言元は斜向かいの席に座った制服の違う女子高生2人組だった。片方はありがちな紺のブレザー、もう片方は特徴的な、白いセーラー服だ。
「なにそれ、知らない」
「うちの学校で聞いた噂なんだけどね」
話題を投げかけたのはセーラー服のほうだったらしい。友人を待つ間は手持無沙汰だ。暇つぶしに耳を傾ける。
「朝、誰もいない時間に屋上からすごくいい声の歌が聞こえるんだって」
「ホラーかいたずらじゃないの?」
「違うよ。ちゃんと歌ってる人がいるの見た人いるもん」
「でもディーバって歌姫のことでしょ。学ラン着てるの?」
「私も噂でしか知らないんだけど、学ランは確かみたい。だけど声は高くて、男の人じゃないはずなんだって」
「ふうん。合唱部とかの人かな」
「でね、遠目だったから首まである服だったのは確かみたいなんだけど、うちの学ランかどうかは分からないんだって」
「ああ、あんたのとこの詰襟、ちょっと変わってるもんね」
「そう。さすがにそこまで確認できなかったから、もしかしたら近所に住んでる他校生かも」
「ええー、それって侵入者」
「違うって。いや、そうだったら確かに侵入者なんだけど、他校生だったらうちだけじゃなくて他にも入り込んでそうだよね、って話」
「早朝の学校に男装のディーバかー」
「ドラマみたいじゃない?」
転々と変わっていく彼女たちの雑談は、今度は一度新設校の七不思議へ飛び、それから放送中のドラマへと飛んだ。
高尾の待ち人はまだ訪れない。
「『学ランのディーバ』、ね」
意識を手元に戻して呟いた。
学ランはともかくディーバと言われて、高尾は以前見たミュージックビデオのことを思い出していた。

という、歌う設定のコネタ出し。
早朝なのは朝練前で、鍵当番にしても早く来すぎてしまったからだよ。

「ところで光ちゃん、こういう噂を聞いたことがあるかえ?」
「ええっ! なにそれ知らない!」
「和成もっと詳しく」
「かくかくしかじか、まるまるうまうま」
「さすがに東京と京都、関東と関西だと噂は伝わってこなかったな」
「そこまで広まってたらこわいって」
「ところで光樹」
「光ちゃーん?」
「「学ランのディーバ、ご本人の感想は?」」
「勘弁してください……」

ところで、いま友人にすすめてもらった青空の卵を読んでいるんだけど、これがちょっとどころじゃなくすごい。
そのうち鳥井さんが「坂木との時間を邪魔したからだ」とか言い出しそうでどきどきする。
あと滝本小宮の警官コンビは青峰桜井でイメージしてる。