真白い月が冴え冴えと冷えた光を地上に注いでいる。月の光以外に地上を照らすものはなにもない。
ばさりと一度、大きな羽音が響く。黒く大きな鳥だ。鳥はその身に月光を受け、濡れ色の黒につややかに光を反射させて飛んでいく。
大きな風の音が尾を引いて流れていく。パウダースノーが吹き上げられて、いかにもな寒さと寂寥を想像させる。
ぐるりとゆるく旋回して見えた周囲にはなにもない。森と、動物の足跡さえない一面の雪景色。周囲の木立が途切れて丸くなった一帯は、厚く凍りついた湖のようだ。その一帯だけ周囲よりひと際多く風が雪を舞い上げている。
風音に紛れて音が聞こえてくる。最初は低く小さく、次第に吹雪く音を呑み込んで大きく広がっていく。
なにかを探すように空中を旋回しながら下降していた視点は、もう随分地上に近い。その視点は唐突に風景以外のものを映した。
雪明りと月明かりと闇夜で景色は一面青白い。その青白さの中にたったひとり、ドレス姿の女性が立ちつくしていた。光は彼女を怪しく、神秘的に照らし、浮かび上がらせている。
彼女の彩られた唇がそっと動き始める。閉じられていた瞼も唇とともに徐々に持ち上がっていく。隠されていた瞳は思いがけず鋭く、鋭い茶の瞳は観る者を残らず射抜いた。
動き始めた唇からは音とともに真っ白な呼気が大きく立ち上っていく。風が舞い上げる雪と呼気の白を青白い闇の中が照らした。
と、彼女がそっと腕を持ち上げた。ゆるりとした動作で持ち上がり、伸ばされた腕には先ほどの黒く大きな鳥が止まった。

という、クレムリンダスクを歌う降旗くんのPV妄想。