単発ネタ(昔書いたのをサルベージその3)

入梅を間近に控えた六月の空は昨夕から降り出した雨を未だに降り注ぎ続けている。明るいのに薄暗いという複雑な空の色も朝から変わらず。雨音もしないような細かな粒の霧にも似た雨をぽそぽそと。――すっきりしない。
キャミソールにハーフパンツという夏にはパジャマ代わりになっている格好で、リビングのフローリングに直に座り込み(しかも胡坐だ)新聞を広げ、ひどい寝癖も直さずパンをかじる。自分のほかは誰もいないからこそできる芸当だ。さすがに父母のどちらかがいたらこうはできない。せめてちゃんと椅子に座らないと怒られるだろう。妹だったら…それでもやはり、何かしらのたしなめは受けたと思う。
いつもは父がいの一番に開く新聞は、彼の不在でまだ硬いままだった。開きぐせのついていない新聞を読むのは久しぶりだ。インクのにおいもいつもより強く香る。
休日の、食事をすればブランチと言える時間帯。父母も妹もいない家。外は音もない雨。とても静かだ。室内外のどちらもしんと静まり返って、まるで家の周囲だけが透明で厚いドームに包み込まれてしまっているようだ。
新聞の天気予報欄に目をやると、北海道ではしばらく雨は降らないようだった。私以外の家族は今、北海道に行っている。妹の部活動(なんと硬式野球部だ。しかもマネージャーではなく正式部員!さらに言えばポジションはサードだという。公式な試合には出られないかもしれないけれど妹はそれでも野球が好きで、父も母ももちろん私も、そんな妹を心底応援している。)の遠征の付き添いで。帰ってくるのは予定では明後日だ。それまで家には自分以外誰もいない。…いや違う。
頼んでいるお土産は果たしてちゃんと買ってきてくれるだろうか。めぼしい記事を一通り読んだ紙面をめくりながら視線を上げる。そしてそのまま、相手に気づかれないよう精一杯のさり気なさを装ってちらりと視線を窓際に流した。窓の外の雨は相変わらずだ。音もなく地に注ぐ。それから――窓際に座る子も、相変わらずそこにいる。

存在に気がついたのはいったいいつだっただろうか。今となってはもはや思い出せないけれど(私は自分の記憶に自信がないことにだけはよほどの自信がある)ふと気がついたらもうそこにいた。父母や妹に聞いてみようと思いつつ、各々の仕事や部活でなかなか時間が取れずここまできてしまった。私だけに見えているのかとかいったい何者なんだとか、確かに最初こそは驚き思ったけれど、それももはや気にならなくなってきたのだから今度はそんな自分に驚く。自分はこんなに順応性高く寛容な人間だっただろうか。けれど、今となってはもはやその疑問さえ抱かなくなったのだから慣れというものはすごい。
気づいたらそこにいて、いつの間にかいるのが当たり前の存在なっている。

彼(それとも彼女?)は基本的にはリビングまたは和室の窓際にちょこんと座って、まれには立って、それはそれは熱心に外を見ている。それ以外の、たとえばいたずらやひとり遊びなどをしているところは見たことがない。たまに何かしらの目的があるのか家の中を歩いている姿を見ることはあるけれどそれだけだ。

 

(say something)
ぽこん、と浮かんできてしまったので(そのほかのことをまるっとほうりだして)お風呂上りに一気にがーっと。前の灼熱とはまた違った、灼熱よりは断然今までに近い書きかた(まだ若干違いますけれど。)をしたのでものすごく書きやすかったです。灼熱は難しかったー。
たぶん、初めて、いわゆる"普通の家庭"を書いたような気がします。姉妹を書いたのもおそらく初めてです。わお。普通の家庭も姉妹も、意図的に書かなかったわけではないんですけれど。これまでは気づくと少年を書いてて、もっと言えば、ついつい好きな少年と女性、の組み合わせになりがちでした。…だってあの…年長の女性と年下の男性(少年)という組み合わせがもう、ほんっとうに好きでね…!社会人と学生とか!先輩と後輩とか!姉と弟とか!…たまらーん…!
3年前に沖縄に行ったときにふと思い浮かんだ話と、そのあとにまた少し考えた話と、さらにそのまたあとに考えた話と、もしかしたら似ているような気がします。でも似ていないかも。それとも、全部をぐちゃって混ぜて改めて絞り出した感じ?本当に冒頭だけしか浮かんでこなかったのでタイトルはつけられませんでした。

これはちょっと設定が気に入ってる。