花祭パロ3

忘れものの確認から始まった兄の小言は、目的の部屋への道中、延々と続いた。
あれをしないように、これをすること、と言葉を積み重ねる兄に、少しうしろをついて歩く乱は分かった、頑張る、気をつけるといちいち返事をする。
とは言ってもひとつながりの建物の中、そう長い道中ではない。やがて目当ての部屋の扉が見えると、兄はその少し前でぴたりと足を止めた。振り返り、乱をぎゅっと抱きしめる。
「なにか困ったことがあったら、すぐに連絡してきなさい。…頑張っておいで」
結局、兄のもっとも伝えたかったのはこのひと言だったのだ。この厳しくやさしい兄がすこぶる心配性で、ときどきとても不器用なことを弟たちはみんなよく知っている。
「ありがとう」
乱も兄を強く抱きしめ返して目を閉じた。抱きしめてくる兄の体温と物理的な距離が開くと思えば乱も寂しさを感じる。
兄は乱の頬を撫で、髪を整えて立ち上がった。最初と変わりなく静かに歩を進め、扉をノックする。向こうからどうぞと声がかかって、兄は扉を開けた。
「失礼いたします。――お待たせいたしました、乱藤四郎を連れてまいりました」
兄に続いて室内に入ると、正面の応接セットに座っているのは見知った学院の副理事長と、見知らぬ大人の男の人だった。一瞬目があったが目つきがあんまり鋭くて少しおそろしい。一挙手一投足を見逃さない目ようなで見られて覚悟が怯む。
しかし怯んではいられない。兄の手にやわらかく背を押されて促され、あいさつをする。
「乱藤四郎と申します。よろしくお願いいたします」
この目つきの鋭い男がきょうから乱の花主となるのだ。

時系列としては、乱が同田貫家へ→後藤が物吉と出会う→平野と鶯丸の雨の外出&鶯丸の退職+平野の花主になる→博多が日本号家へ→五虎退と大倶利伽羅(→燭台切と前田)→長谷部と薬研+パーティーで博多とばったり、かな。