レースの話

「もし君たちが望むなら、新たに君たちのチームを立ち上げてもいい。君たちに悪い話はひとつもないと思うけれど、どうかな」
「そうですね、光栄で身に余るほどの条件だと思います」
「ちょっと、規定…!」
「ですがお断りします。現状さえ満足に収められていないのにその上ができるとは思えません」
「君は随分と冷静だね。こういうとき、多くは自分の技術が認められたことに対して舞い上がったり浮かれたりするものでは?」
「冷静でないとナビは務まりませんから」
「君もそれでいいのか?」
「わたしのナビが言うことですから。わたしのナビは道を間違えません」
「わたしたちの最後のレースまで見届けて、その上でまだ望んでいただけるのなら、なおお気持ちが変わらずにあるなら、そのときは喜んでお受けします」

「ところで君は読書はする? ○○を読んだことは?」
「いいえ」
「先ほどのセリフが○○に出てくるものだから、もしかして読んだことがあるのかと」
「今度、全巻贈ろう。おすすめの本をプレゼントするのは規定違反ではないだろう?」
「…楽しみにしています」

「なんか疲れたなー」
「食べた気もあんまりしないし、何かつまみに行こうよ」

主人公のハンドルの子と、主人公のナビの子と、食えないおっさんの学生レース憲章規約違反未遂現場。
このおっさんも、単純にもっといい環境でやらせてあげたいというだけの足長おじさん的心持だけ。
才能があって、挑戦する気持ちがあるなら与えよう的な。もっといいマシンに乗って、先人のアドバイスを受ければさらによくなる、みたいな。
あー、っていうと、規約違反とはちょっとずれるかなー。現状を捨てて上がってこいって話だからな。